派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 



「さて、蓮。
 そこに直れ」

 みんなが帰ったあと、いよいよ、切腹ですか、という勢いで、渚が迫ってくる。

 介錯人として、徳田が現れそうだ。

「なんであんな無茶をした」

 蓮は殊勝に正座をし、渚を見上げた。

「だって、渚さんにとって、脇田さんは絶対に必要に人だと思ったからです」

 自分なんかのことで、仲違いをしては、今後の渚のためによくないと思ったと告げる。

 腕を組んで見下ろす渚は、渋い顔をし、
「だからって、自分を犠牲にすることはないだろ」
と言ってくる。

「……いえ、まあ、実は本気で来たら、抵抗するつもりでした。

 私結構、強いんですよ」
と蓮は笑ってみせた。

「そうなのか?」

 まあ、護身術とかやってそうだな、と言う。

「それにしては、俺のときは、力づくで抵抗してきたりはしなかったな」

「そうですね。
 なんででしょうね」
と言うと、

「すっとぼけるな。
 好きだったんだろ、最初から」
と言ってくる。
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