派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 渚が何時間座っていても疲れなさそうな椅子に背を預け、こちらを見る。

「昨夜はすまなかったな、寝てしまって」

 いえ、それはかえって助かりましたけどね、……襲われなくて、と思ったが、まあ、そこは言わずに、
「ありがとうございました」
と頭を下げる。

「徳田さんに美味しい朝食を用意していただきまして。
 お掃除までしていただいたんですよ。

 朝から幸せでした。
 徳田さんによろしくお伝えください」
と言うと、なんだ、その喜びようは、という顔をしながらも、

「わかった。
 伝えておこう。

 徳田を置いて帰ったら、ビビるかなとは思ったんだが。

 他の若い男をやらせるわけにもいかないし」
と言ってくる。

「いえ、徳田さん、最高です。
 徳田さんに合鍵を渡しておきたいくらいです」
と言うと、

「おお、渡せ。
 徳田のことだ。
 バッチリコピーを作って俺にくれるだろう」
と言っていた。

 ま、お坊っちゃまの忠実な家臣って感じですからね、と思う。
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