派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~




 三日後、人気のない社食で、その男に出くわした。

「おお、お前は確か、ハスの花子」

「蓮(れん)ですよ」
と蓮は自動販売機の前で、渚に言った。

「サボりか」

「人聞きの悪い。
 もう私は終わりなので、帰りにアイス買って帰ろうかな、と思っただけです」

 何種類もあるアイスの自動販売機を見ながら渚が、近くの椅子に腰を下ろして訊いてくる。

「それ、美味いのか?」

 蓮は小首を傾げながら、
「美味しくないこともないです」
と答えた。

「昔はそう好きじゃなかったんですけど。
 この会社に来たとき、今日も一日働いたなーと思いながら、一種類ずつ買おうと思って。

 ……あっ、小銭がないっ。
 千円札もないっ」
と財布の中を見ると、立ち上がった渚が千円入れてくれる。

「好きなだけ買え」

「人の話、聞いてなかったんですか。
 一日、一個なんです。

 それに、お金借りても、またいつ会うかわからないじゃないですか」
と言うと、

「じゃあ、俺のも買え」
と言ってくるが、二個でも、四百円にもならないが。
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