心に届く歌






エル様は以前僕に「好き」と言ってくれた。

僕は言われたことがなかったため、酷い言葉で拒否をしてしまった。




そのあとちゃんと自分の気持ちを伝えた。

「言われたことがないから、信じられないし迷惑だと思ってしまう」と。

泣きながら伝えた僕を、エル様は抱きしめて聞いてくれた。




それ以来、エル様の口から「好き」だと聞かなくなった。

「友達」だと僕のことを言い、エル様は笑う。

その笑顔と優しさが、最近辛い。




言われたことがないから。

そんなの本当は言い訳に過ぎなかった?

どんな理由があっても「迷惑」も「害」も言っちゃいけなかった。

エル様の気持ちを、否定しちゃいけなかった。



取り返しのつかない酷いことをした。

それなのにエル様は怒らず、僕を抱きしめ優しくしてくれる。



怒ってほしくないけど、怒ってほしかった。

底がわからないほど優しいエル様の、本音を怒りを通じて知りたかった。

エル様の僕の言葉で傷ついたであろう心を、怒ることで癒してほしかった。




「でも……怒られるの、怖いよ…」




大事な人だから。

憧れている人だから。

尊敬している人だから。

助けてくれた人だから。

僕に生きる意味を教えてくれた、恩人だから。



見捨てられたり、怒られたり、罵られたり、存在を否定されたら。



僕はグッと強く右手で左手首を掴む。

1週間に1度、エル様が見守る中ドクさんが変えてくれる包帯の感触。




「……エル様…お願い、僕のこと捨てないで…。
あなたに捨てられたら…僕……ぼく……」




布団を頭から被り、僕は強く強く目を瞑った。





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