心に届く歌
「へぇー。金持ちはやっぱり違うわね」
本家の廊下を歩きながら、彼女は感想を漏らす。
さっきからベレイくんは黙り込んだまま、彼女の後ろを歩いている。
時折彼女を見つめる瞳が、妖しく輝く。
「そういえば、あの後あんたどうなったの?」
「あの後……?」
「“儀式”が終わった後よ。
いつの間に地下室を出ていなくなっていたの?」
「……地下室に外へ通じる扉を見つけたから、そこから外に出て、倒れたんです」
「それで?どうしてここで執事なんてしているの?」
「……倒れていた僕を救ってくれたのが、エル様でした」
「エル様って…正統王位継承者のエル様?」
「はい……。
あの時、お父上である国王様と一緒に、ご主人様主催のお茶会に来ていたことをご存知ですか」
「覚えているわよ。
あんたが問題を起こした日だものね」
「……エル様が、雨の中倒れていた僕を、助けてくれて、こうして執事として恩返しのために働かせていただいています」
「……まるでおとぎ話みたいね」
「僕もいまだ信じられていません……」
「……その幸せ、ぶち壊してあげようか」
「え?」
僕はその場で立ち止まった。
僕より数歩前に出た彼女は勝ち誇ったように笑っていた。