心に届く歌
「……エル様」
「あらシエル、どうし……あら」
ペン回しをしていたエル様が振り向き、僕の隣で笑うふたりを見て目を丸くする。
そしてペンを置くと僕らの元へやってきた。
「あなたたちが今日入ってきたメイドさんと執事さん?」
「そうです!
アタシ、ソンジュって言います。よろしくお願いします!」
「ボクはベレイです。
噂には聞いていましたが本当に素敵ですね」
「ありがとう。……シエル、ちょっと来て」
エル様は僕を呼び、ふたりから離れた位置で小さな声で聞いてきた。
「わたしの部屋に入って良いのはシエルとドクとお父様とお母様と、メイドと執事を束ねる長と一部のメイドと執事と、シェフだけだって言われているでしょう?
どうして新人のふたりを部屋に入れたの?
ノックもしていないし」
「……ごめんなさい」
「わたしは黙っておくけど、メイド長と執事長に見つかったらただじゃおかないわ。
早くふたりを連れて部屋を出て。
そして今後一切新人を入れたりしないで。良い?」
「はい。本当に、申し訳ありませんでした」
謝ってふたりを連れ部屋を出てから気が付く。
幸せをぶち壊されたくないばかりに、決まりを破ってふたりを部屋に入れた僕。
こんなの…ただ自分を守っただけじゃないか。
やっぱり僕は臆病者だ。