心に届く歌
教科書を見つめるお母様を見て、わたしはアンスから聞いたことを思い出した。
「ねえお母様。
お母様とお父様は、リュンヌ王国の王様と王妃と親友だったって本当?」
「ええ、本当よ」
お母様はそう言うと、腕にいつもつけているブレスレットを取り手のひらに乗せた。
気に留めていなかったけど、そのブレスレットを見てわたしは目を見開いた。
オレンジ色の皮で出来た紐に通された、4つの白い玉。
「お母様、これ真珠よね……」
「ええそうよ」
「これ……月の真珠?」
リュンヌ王国王妃が肌身離さずつけていたけど、息子と共に行方不明となってしまった月の真珠。
それは紐に通された真珠だとアンスが言っていた。
「違うわよ。
これは、太陽の真珠」
「太陽の真珠?」
「月の真珠と太陽の真珠は、ソレイユ王国とリュンヌ王国の親交の証みたいなものよ。
正式に言えば、あたくしとエテの親友の証」
「エテ……?」
「リュンヌ王国の王妃でありあたくしの親友でもある、エテ・リュンヌのことよ」
わたしはお母様がテーブルに置いた教科書を持ち上げる。
幸せそうな、リュンヌ王国の王様と王妃様の写真。
【リュンヌ王国
国王:オトンヌ・リュンヌ
王妃:エテ・リュンヌ】
オトンヌ国王と、エテ王妃……。
「あたくしとエテは学生時代の親友で、
その証としてエテがあたくしにこの太陽の真珠を送って、
あたくしがエテに月の真珠を送ったのよ」
「月の真珠はお母様が……?」
「ええ。
だから今も少し探しているんだけど…見つからないわね」
お母様が笑う。
だけどその笑みはいつものおっとりした笑みではなく、哀しそうな笑みだった。