心に届く歌
「お母様は、リュンヌ王国の次期国王であった息子…生きていると思ってる?」
「……どうかしらね。
戦争で亡くなったものだと思っているわ。
勿論、生きていてほしいけどね」
お母様は無邪気に笑った。
「だってもし王子様が生きていたら、それこそエルちゃんの婚約者だもの」
「は!?」
「エテと約束していたの。
もし子どもが生まれて男女だったら、結婚させようって」
「……そう、だったんだ…」
「どこにいるのかしらね……生きていてほしいわ」
リュンヌ王国の王子様……。
どんな人だったんだろう。
生きていれば、どんな風になっているのだろう。
「……あの、イヴェール様」
「どうしたのシエルくん」
「……リュンヌ王国のその、王子様のお名前は…何ですか?」
「名前を付ける前に亡くなったと聞いているから、名前はないはずよ」
「……そうですか」
シエルは頷いて、教科書を持ち上げぺらぺらめくっていた。