心に届く歌







その日の夜。

お風呂を上がり、わたしは部屋の扉を開けた。

すると、シエルがベッドの上に横顔を向けて座っていた。



寮にベッドはあるものの、わたしの我が儘で一緒に寝るよう言っている。

「シエル」と呼びかけようとしたわたしは、気づいた。

シエルの様子が、いつもと違うことに。




電気がついていない、月明かりだけが注ぐ部屋。

ほぼ真っ暗な部屋で、シエルはベッドの上布団に座りつつ俯いていた。




そして、スッと手を上げると、

サッと慣れた手つきで前髪を全部掻き上げた。




初めて露わとなる、シエルの白い肌の広がる額。

その額には、月明かりで何かキラリと光るものがあった。

何かしら…と首を傾げていると、シエルは前髪を再び下げてしまった。

そしてこちらをゆっくりと振り向き……前髪の向こうの目を遠くからでもわかるぐらい見開いた。




「エル様……っ、いつからそこに!?」

「いつからって……」

「まさか……見ました?」




シエルの視線と声は警戒心に満ち溢れていて。

わたしは首を振った。




「何の話?
わたし今来たばかりよ。

扉開けたらシエルが突然こっち向いて叫んで…驚いたわ」

「……驚かせてしまい、申し訳ありません」

「謝らないでよ。
それより早く寝ましょ」

「……はい」




寝る準備を済ませ、一緒に同じ布団の中に入る。

シエルは疲れていたのか、布団に入りすぐに眠ってしまった。

寝息が聞こえる中、わたしは少し上体を起こし、シエルの長い前髪を見た。



上げたい。

見てみたい。

でも……シエルがあんな警戒心を向けるのであるなら、見てはいけない。



わたしは見たことを忘れることに決め、眠りに落ちた。





< 440 / 539 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop