心に届く歌
☆シエルside☆
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。落ち着いて解くのよ」
「はい」
学校へと再び通い始めてから月日が流れた今日。
僕の運命を変えると言っても過言ではない日を迎えた。
エル様に見送られお屋敷を出る。
今日行われるテストで合格点に行けば、僕は正式に執事見習いからエル様の執事になる。
まだまだ至らない所は多くても、肩書きは正統王位継承者エル・ソレイユ様の執事となる。
絶対に失敗は許されない。
「よっシエル」
「おはようアンス」
校門を通り過ぎてすぐ、アンスと出会う。
ポンッと後ろから肩を叩かれても体も震え上がらなくなった。
初対面の人はまだ苦手だけど、大きな進歩だと自画自賛している。
「今日はテストだから皆ピリピリしているぞー」
「そうなんだ…。アンスはいつも通りだね」
「いや?俺だって超緊張しているぜ?」
「している風には見えないけど…」
「そういうシエルも緊張していねぇように俺は見えるけど」
「してるよ……だって今日僕の運命変えるかもしれない日だし」
「そういやそうだな」
何故か寂しそうに見えてきた校舎を見つめるアンス。
「……何で、そんなに寂しそうなの」
「は?」
「寂しそうに見える…何かあった?」
「……鈍感そうに見えて意外と鋭いんだな」
「えっ酷い」
人の顔色を無意識のうちに伺ってしまうのは、きっと僕の悪い癖。
人に対する態度は変わってきているけど、内面は簡単には変われないと実感する。
「人の顔色伺う癖があるから……」
「人の顔色伺う癖……ああ、ずっと伺ってきたから癖になったのか」
「そうかもしれない……。
早く直さないと、マズいよね?」
「いや?
別に直さなくても良いと思うぞ。
人のことちゃんと見ているってことになるだろ」
「……ありがと。ポジティブに変えてくれて。
それで…アンスはどうしたの?」
アンスはスッと手を伸ばし、僕の頭をポンポンと叩いた。
僕より背が高いから、まるでお兄ちゃんみたいだ。
「聞きたいことあるんだけど、テスト合格したらどうするわけ?」
「え?」
「学校止めるわけ?」
僕は何も言えなかった。
合格したら執事になる、そればかり考えていて。
学校のことは考えていなかった。
「……まだ、決めてない」
「そっか。
止めるのであれば寂しくなるなぁ思って」
「…………」
「ま、その前よりテストか。
教室行って最後の勉強すっぞ!」
アンスは無理矢理笑って校舎へ向かって走る。
僕はその後を小走りで追いかけたのだった。