心に届く歌







「…アイツ、まだわたしのこと婚約者と思っているのね」

「もしかしたらいつか来るかもしれないな」

「それってもしかして、俺のことか?呼んだか?」




扉が閉まっているはずの廊下から聞こえ、エルちゃんとふたりで驚く。

すると扉が開き、トレードマークらしい目立つ金髪が先に見え、次にプーセの余裕そうな顔が出てきた。




「よぉ婚約者に我が従兄弟。久しぶりだな」

「プーセ…久しぶりね」

「俺はさっきぶりだけどな」




プーセは堂々とエルちゃんの隣に座り、部屋を見渡す。




「ふーん……まぁまぁ趣味良い部屋だな」

「ありがとう」

「俺好みじゃねぇけど。なぁ煙草ねぇの?」

「ないわよ。わたし吸わないもの」

「んじゃ灰皿持ってくるよう言えよ」

「ここで吸うのはやめて。
においが部屋についてしまうわ。

それに……」




エルちゃんは口を噤み、チラリとシエルが眠るベッドを見る。

…そっか、シエルは煙草でかつてパニックを起こしたんだ。

シエルのことも考えるなんて、エルちゃん乙女だな。




「……何で貧乏人がこの部屋にいるわけ?」



エルちゃんの視線を追ったプーセが立ち上がり、ベッドに近づく。

急いでシエルに何かしないよう見るためにプーセを追いかける。

シエルはプーセの鋭い視線に気づかず、すやすや眠っている。




「……おい起きろ、貧乏人」

「やめろプーセ、起こすな」

「うるせぇよ。起きろ貧乏人」




シエルの肩を掴み、グラグラ揺らすプーセ。

止める声も聞かないまま、シエルがゆっくり目を覚ました。




「……って、え…」

「起きろ。立て貧乏人」




シエルはゆっくり立ち上がり、プーセと向き合う。

プーセは俺よりも背が高く、シエルとは頭ひとつ分ほど高さが違う。

威圧的なプーセに、シエルはガタガタ震えていた。




「シエル」

「アン、ス……」




呼ぶと、シエルは震えたまま俺の後ろに隠れた。

怖がりなシエルを、俺は後ろに隠したままプーセを見た。




「シエルに、親友に手出ししたら俺が許さねぇから」

「クザン家トップがそんな貧乏人に優しくして、何が目的だ」

「目的なんてねぇよ。
親友を守るのが親友の役目だろ」

「親友……?何仲良しこよししちゃっているわけ?」



シエルは似ている。

かつて俺が見て見ぬふりしてしまったいじめられていた村の少年に。

『ボクを、殺してくれる?』

暗い瞳で聞いてきたアイツに、シエルは似ていた。





その時は見て見ぬふりしてしまったけど、今回は違う。

絶対に、シエルを守るから。





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