ポラリスの贈りもの

隣に座る流星さんの顔は、私と違いとても穏やかな顔をしており、
鈍感な私にも直前に何か良いことがあったんだろうなと感じさせる。
彼から辞退の経緯を促され、
昨日北斗さんから切り出された内容の顛末を語り始めた。
説明下手の私が口籠りながら話す事柄でも、
彼は真剣に耳を傾けて相槌をうつ。
そんな聞き上手な流星さんに引き出される形で、
私は抱えている葛藤や悩みまでも涙をこらえ吐露していた。


流星「そうか。
  やっぱりそういうことだったか。兄貴のやつ」
星光「でも、よくよく考えると私が悪いんですよ。
  北斗さんから連絡をもらうまでに辞表をだして、
  スターメソッドに行く準備をする予定だったんです。
  社長さんと面談する予定だったのに、店長から返されてしまって。
  私、どうしていいか判らなくて相談しようと思って話したけど、
  会社を辞めることは私にしかできないことだもの。
  頼り過ぎたことで、彼を困らせてしまったのかもしれない。
  だからきっと、辞退しろって言われちゃったんです」
流星「ふーん」


流星さんは腕組みをして少しの間、何か考えていたようだったけど、
いきなり私の手にあるおにぎりを取ると、
肩からかけていたカメラを私の掌に乗せたのだ。
彼の思わぬ行動に私は慌てふためき、
全神経を一眼レフカメラに集中させて落ちないように両手に力を入れた。
そして堪らず、助けを求めるように叫んだ。


星光「流星さん!駄目です。200万が!」
流星「えっ?200万?」
星光「また壊しちゃいます!私」
流星「あはははははっ!大丈夫だよ。
  持ったくらいで壊れないよ。
  カメラは初心者?」
星光「は、はい!
  流星さん、お願いです。早くどけてぇー」
流星「あははははははっ!そんなに怖がらなくても。
  カメラは噛みつきはしないよ。(カメラを持っておにぎりを返す)
  まぁ、おにぎりのほうがうまいけどな」
星光「はぁーっ!」
流星「ほらっ。俺が支えてるからもう一度カメラ触ってみて」
星光「えっ」


流星さんはカメラのあるボタンを押す。
そして立ち上がって背後に回ると私の肩に手を回し、
目の前にカメラをかざして持たせると私の左手をとった。
再びカメラを持たされた緊張と、導くような彼の優しい口調で、
私の鼓動はバクンバクンと大きく波打ちだす。
流星さんの温かな指と私の冷たい指が重なる。


流星「いいかい?ここに指をおいて」
星光「えっ」
流星「大丈夫。怖がらなくていいよ。
  俺がしっかり支えてるからそのままで。
  景色が写ってる四角い画面をよく見てて」
星光「は、はい」


カシャッ!(カメラのシャッター音)


星光「わぁ……すごく綺麗……
  この公園にこんな綺麗でかわいい鳥がいたなんて」
流星「これはシジュウカラっていう鳥だよ」
星光「シジュウカラ」
流星「星光さん。
  これが兄貴がいつも見ている世界だよ。
  恐れずに触れれば、兄貴のことも手に取る様に分かる」
星光「北斗さんの、世界……」 



流星さんは色鮮やかに写ってる画像を私に見せてくれた。
カメラの液晶モニターに写ったその景色は、
いつもなら見ることのできないシジュウカラの羽の形状や艶やかさ、
躍動感まで鮮明に映し出されていた。
ビビットな映像美に生命の神秘と彼らの居る世界に触れ、
私の心に新たな価値観が生まれる程の感動を覚えたのだった。

(続く)


この物語はフィクションです。 
< 43 / 121 >

この作品をシェア

pagetop