ポラリスの贈りもの

(会議室前の廊下)


カレン「根岸くん。
   何故あんなデタラメをカズに言ったの!?」
根岸 「ん。あれはデタラメでしたか?横浜のホテル」
カレン「そこじゃなくて。私たちが付き合ってるって」
根岸 「あぁー、そこ(笑)」
カレン「あんなこと言ったら、私たちの仲が怪しまれるじゃない」
根岸 「いえ。怪しまれるどころか、彼は乗ってきました。
   俺の誘導にね」
カレン「えっ?」
根岸 「神道社長が権力を使って押しの一手で来るなら、
   俺は戦略的精神と心理戦ですよ」
カレン「それって、逃げれば追ってくるってこと?」
根岸 「ええ。それもありますが、チェスの名言にもあるでしょ?
   “心優しいものにチェスはできない”って。
   彼は必死で貴女を取り戻しにきますよ」
カレン「えっ……」
   

根岸さんは意味ありげに微笑み立ち止ちどまると、
不安げなカレンさんの顎を持ちあげ、塞ぐようにキスをした。
魔性のような魅力に引き込まれてうっとりするカレンさんを、
彼はエスコートするように再び歩き出す。
二人は薄暗い廊下を軽快に歩き、
笑いながら闇の中に消えて行ったのだ。


ひとり残された北斗さんは、
冷たく大きなガラスに近づき身をゆだね凭れた。
車や電車の騒音が、分厚いガラスを通して遠くかすかに響いてくる。
すっかり暗くなった新宿の街のネオンを仰ぎ、
物悲しげな目をして落胆の溜息を漏らしたのだった。

(続く)


この物語はフィクションです。
< 46 / 121 >

この作品をシェア

pagetop