ポラリスの贈りもの

流星「俺だって事情を知ってる一人なんだ。
  鬼退治するのに、俺抜きはないだろ?」
七星「流星。お前、誰に聞いたんだ」
流星「神道社長に縋りついて聞き出したんだ。
  俺も協力する。戦うなら人数が多いほうがいいだろう」
根岸「ったく(笑)」
七星「そうだな。確かに多いほうがいい。今夜対策を練ろう」
流星「おお。根岸。
  実は俺さ、この撮影に入った時からお前に惚れてたんだ」
根岸「えっ(焦)」
七星「何をバカ言ってる(笑)」
流星「これからも俺たちと一緒に写真撮ろうぜ。
  なっ、だからうちで働け!」
根岸「ふっ(笑)
  なんだか、同じ声で同じことを言われると複雑な心境になるな」
流星「あっ、それ。星光ちゃんからよく言われるんだ」
三人「あははははっ」
  

ほのぼのとした男同士の友情を、私は洗濯物を干しながら笑顔で傍観する。
少しするとそんな長閑な別荘に、一人二人と人が集まり始める。
その中には自社の仕事で休んでいた酒枝さんと堀田さんの姿もあり、
またいつものメンバーで慌ただしい一日が始まった。
しかも、今日からモデルさんらしき数名の女性も撮影に加わっている。
そのお蔭で、
私も間近で北斗さんがカメラを構える姿を見ることができたのだ。
私にとってその姿は英雄そのもので、感動と憧れの溜息が何度も漏れる。
ファインダーを覗きながらシャッターを押す姿に、
彼のことが本当に大好きなんだと、
再認識したくらいにうっとりと見惚れながら。



砂浜ではBチームのカメラマンも撮影をしていて、
なんだかすごい光景が目の前で繰り広げられている。
北斗さんの撮影がひと段落してカメラを下ろした時だった。


カシャカシャカシャ…(シャッターの連写音)


七星「(ん!?この連写音……
  まさかあの時の!こいつが!?)」



ある人物のシャッター音を聞いた瞬間、
彼の中にあった疑問が確信に変わったのだ。
まるでクルクル回るパズルの絵柄がガチッと合わさる様に……
凝視する北斗さんの視線を感じたのか、
カメラを抱えたその人物もカメラをゆっくり下ろし、彼をじっと見つめる。
不明朗だったものがぶつかり合う視線の火花で、
北斗さんには真実が鮮明に見えたのだった。




そして嵐の予兆はその日の深夜、忍びのように別荘にやってくる。
夕食の片づけをしていると、
流星さんと根岸さんが二階に上がっていくのか見えた。
東さんの部屋で対策会議が始まるのだと私は悟る。
洗ったお皿を片付けながら、自分のできる手伝いは何かを考えていた。
そして、リビングの先にある機材室をじっと見ていて、
正に素人らしいある疑問がふと頭を過ったのだ。
あの中にあるのはみんなの相棒。撮影の要。
カメラマンにとって、とても重要なボディパーツのようなもの。
もし、あの中のカメラが無くなってしまったら、
みんな路頭に迷うだろうな。
それに撮影どころではなくなるだろうとも。


布団に入ってからもそんなことを想像していると、
急に言葉にならない不安や恐怖が襲ってきた。
機材室のカギは掛けてあるんだろうか。
七星さんのカメラは無事に保管庫で眠ってるだろうか。
流星さんのカメラや根岸さんのカメラは!?
そんなことまで考えを巡らしていると結局今夜も眠れず、
私はゆっくり起き上がりジャケットを羽織って部屋を出た。
足音を立てずにゆっくり階段を下りると、
リビングの関節照明はついていたけれど誰もいない。
私は真っ先に機材室に向かい、ドアノブに手をかけて右に回した。
カチャという音とともに、ゆっくり開くドア。


星光「(えっ!?カギが開いてる!?)」


私は一度ドアノブから手を放し、
開ける前にキッチンに置いてあったモップを取りに行き、
左手でしっかり握るとまた機材室の前に戻って、
静かにドアを開けたのだ。
分厚い白木の扉の向こうに、何が待ち受けているかも知らずに。

(続く)


この物語はフィクションです。
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