ポラリスの贈りもの
54、降って湧いたように現れた協力者

私は京都の街を歩きながら、がむしゃらにシャッターを押した。
はっきり言ってうまく撮れているかもわからない。
でも「これだ」と思った瞬間は全て撮る。
それしかできない私だから。
東さんのアドバイス通り、
北斗さんを感じながら自分の想いを込めて……




(京都の旅館、藤の間)

浮城さんはカレンさんを自分の胸に引き寄せて優しく抱きしめ、
カレンさんは浮城さんの胸に顔をうずめてすすり泣く。
ずっと孤独と憎悪に取り憑かれていた心は、
浮城さんの温もりと愛情に救われ、
長い呪縛から解き放たれたように本来の彼女を取り戻せたのだ。
浮城さんはカレンさんの頬を伝う涙を指で優しく拭い、
ゆっくりと布団へ寝かせると子供をあやす様に添い寝した。
暫くの間黙ったままで、彼女の髪を何度も撫でている。


カレン「陽立……」
浮城 「ん?」
カレン「想い出したわ。
   以前もこうやって陽立に慰められながら看病してもらった」
浮城 「えっ!」
カレン「あの日もそうだった。
   朝からひどい頭痛で。
   スケジュールが押してるからって無理して撮影に出かけたの。
   でも、思ったイメージの画像が撮れなくて、
   イライラしてた私はカズとそのことで揉めて、
   ひとり落ち込んで車で泣いてたのよね。
   そしたら陽立が来てくれて、
   袋に入った栄養ドリンクを大量に持ってきた」
浮城 「そうだったっけ?(笑)」
カレン「ええ(笑)『これだけ一気に飲んだら100人力だぞ!』って。
   『バカじゃない!こんなの一気に飲んだら死んじゃうわよ!』って、
   その時私は言ったけど、心の中ではすごく嬉しかったんだ。
   陽立は私が体調悪いって気づいてたんだなってね」
浮城 「カレン」
カレン「そうそう。
   それから、一度だけすごい熱で撮影を休んだこともあった。
   その時、電話くれたんだ。
   『具合どうだ?』ってね。
   すぐに解熱剤とメロンを買ってお見舞いに来てくれたんだ。
   『ばーちゃん秘伝のネギ&大根入り雑炊だ』って言って、
   作って食べさせてくれたの。
   ずっと髪を撫でながら添い寝して、
   私のおでこに冷たいハンドタオルのせてくれてた」
浮城 「しかし(照)よく覚えてんなぁー」
カレン「うん。まだあるわ。
   5年前のクレーン事故の時もそう。
   真っ先に病院へ来てくれたのは陽立だった。
   私の指の震えが止まるまで3時間も話をしてくれた。
   あの時もそう思ったの。
   『何故こんなに女の喜ぶツボを知ってるんだろ』って。
   何故、陽立は私が嬉しくなるツボを知ってるのって……」
浮城 「それはさ、ツボを知ってるっていうんじゃなくて、
   好きな女に何かあったとか、体調を崩してるって知ったら、
   真っ先に気に掛けたり、駆けつけてるってだけのことだよ。
   何の駆け引きも計算もなく、心のままに行動してるだけだ」
カレン「そう……でもそれがずっと嬉しかったの。
   気に掛けてくれる行為が嬉しかった。
   ありがとう。陽立」
浮城 「そんなこと、これからもだよ。
   カレンが困った時や弱ってる時はいつでも俺が傍にいるさ」
カレン「うん。ねぇ、陽立」
浮城 「ん?」
カレン「カズは大丈夫なの?
   星光さんが居なくなってから、真面に撮影できてないんでしょ?」
浮城 「あぁ。流星と根岸がサポートに入って撮影中は傍にいるから、
   皆の前ではなんとか平常心を保って誤魔化してるけどな。
   でもな……」
カレン「ん?ほかに何か問題でもあるの?」
浮城 「ああ。神道社長の命令だって言って、
   東さんが若葉をスタッフとして別荘へ連れてきたんだ。
   だから激怒して東さんを殴ろうとした」
カレン「えっ!?どうして神道社長はそんなひどいことを……
   二人の過去のこと知ってるでしょ?
   東さんだって、そんなことしたらカズがどうなるかくらい、
   察しがつくでしょうに」
浮城 「だからあいつも堪らず感情的になったのかもな」
カレン「カズがカメラを持てなくなる理由も激怒する理由も分かるわ。
   新たな心の傷を負ってすぐ、古傷を抉られたって感じだものね」
浮城 「ああ。正にそうなんだ」


カレンさんの心は素直さを取り戻してから、
いろんなことが鮮明に見えていた。
本当に自分が望む愛のありかたも、
自分を真剣に愛する人が誰なのかも。
そして浮城さんから聞かされた若葉さんの再来が、
北斗さんに新たな試練を与えていることも。
冬の日差しが差し込む藤の間で、
ふたりは温かな時間に浸りながら、
北斗さんと私の今後について話したのだった。


撮影を終えて旅館へ帰ってきた私を、
旅館ロビー横の休憩室で待っていたのは浮城さんで、
彼はスケジュール最終日までの予定を伝えた。
そして私はその日の午後から撮影助手としての仕事を再開する。
私と浮城さんが撮影している間、
カレンさんは穏やかな笑みを浮かべて、
旅館で身体を休め療養したのだった。


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