全力で恋したい!

あたしを呼び出したこの人は、
何故子犬を抱えて寝ているんだろうか。

あたしは、
何故呼ばれたのだろうか。

そんな事を考えながら松田先生を見ていたら
手元をすり抜けて子犬があたしの足元に
駆け寄って来た。

少し栄養が足りないのか、
痩せてしまっているが
人懐っこく尻尾を振って甘えてくる。

しゃがんで子犬をそっと撫でると、
更に嬉しそうに尻尾を振っている。

「可愛くない?何か迷い込んだみたい」
「そうなんですね…、って松田先生?何故あたしを呼び出したんですか?」
「いや、こいつ見つけてなんとなく」
「なんとなく!?」
「うん。なんとなく」

あたしは深いため息をついた。
何があったのかと、校内を走り回って
やっとの想いで探し出したのに、
この人の考えてる事が、心底わからない。

「こいつ、首輪してないし捨てられたんかな?」
「……」
「何とかしてやりたいんだけど、今のアパートペット禁止なんだよね」
「……」
「だから、心ちゃんなんとかして?」
「……?はい!?」

この子をそのままほっとくのは心が痛む。
けど、うちのアパートもペット禁止。
なんとかしたくても、直ぐに出来る訳がないのに。

「無理です。うちもペット禁止だし、松田先生が見つけたんですから、松田先生がなんとかしてください」

呼び止める声を振り切って
あたしは残した仕事を片付けに
心の部屋に戻った。

その時のあたしは、
苛立つ気持ちを抑えるのにいっぱいで
部屋の微妙な変化に気付く事が出来なかった。
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