あなたにspark joy
しかも、初対面のあの日に。

……ひどい。

ムッとした眼差しを向けている篠宮さんを、私はキッと睨み返した。

「ガッカリさせないでください」

篠宮さんが、少し眉をあげた。

「……佐伯さんに失礼じゃないですか。別れてなかったのに私とキスするなんて。あなたは彼女の気持ちを踏みにじったのよ。最低だわ」

ほんともう、最後の最後まで私は惨めな女だ。

なんで私、嫌われてるのに佐伯さんの為に篠宮さんに怒ってるんだろう。

バカみたいだ。

とてもじゃないけどもう、この狭い空間に二人でいたくなかった。

それによく考えたら、今だっていけないことをしている。

だって、私が佐伯さんなら嫌だもの。

降りなきゃ、早く。

胸が握り潰されるように痛くて、これが失恋の痛みだって私には分かっていた。

泣きそうになって視線をあげて、ようやく気づく。

信号待ちで停まったそこは、見慣れた風景だった。

皮肉な事に、篠宮さんと初めて出会ったあの公園の近くだったのだ。

「運転手さん、私だけ降ります!ドア開けてください!」

「あっ、おい!」

構うもんか、もう知るかっ。
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