また、部屋に誰かがいた
部屋に誰かがいた【タクシー】
深夜にグレーのパーカーを着た若い男性客を乗せたタクシーは夜道を郊外に向かって走っていた。
バックミラー越しに運転手が客の様子を覗うが、フードを深くかぶり、下をうつむいたままの男の顔は見えない。
「お客さん、この道をまっすぐでいいんですか?」

「………」


運転手がそう尋ねても、その若い男は何も答えない。

「あの…お客さん…」

再び運転手がバックミラーで乗客を見ながら声をかけると、その男は
ゆっくりとフードを上げ顔を見せる

「………!」

思わずタクシーの運転手はブレーキを踏んで車を停めた。
ミラー越しに、フードを上げて見せた男の顔には…

目がなかった。

そこには黒い穴が二つ開いているだけ、深い闇へ誘おうとするかのようだった。

「うわああああああああ!」

思わず悲鳴を上げて、車から飛び降りた運転手が後部席を見ると、
そこには、もう誰もいなかった。









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