また、部屋に誰かがいた
前夜、夏の季節によくある「心霊怪奇番組」で、そんな話を聞いた栗原和夫はその番組を見たことを後悔した。
彼の職業は同じくタクシー運転手。昨年から念願の「個人タクシー」を開業した。
もともとは親から引き継いだ運送業を営み、小さい会社ながら「社長」だったが、経営不振から会社が倒産してしまい、その後タクシー会社に就職して11年目に個人として独立もできたが、既に妻とは離婚し、子供もいなかった彼は、50歳となった現在、戸建ての一軒家にたった一人で暮らしていた。

静かなリビングで一人、そんなテレビを見てしまったため、昨夜なかなか寝付けなかった彼は仕事中であるタクシーの運転席で大きなあくびをした。

その日は長距離の客を2人乗せることができて、売り上げはまずまず。
だから今日は少し早めに仕事を切り上げようと栗原は考えていた。

時刻は深夜23時を少し回ったくらい。
いつもなら1時くらいまでは乗客を求めて車を流したり、駅前で待ったりするのだが、

「帰りにどこかで夕飯を食べて、そのまま家に帰ろう」

栗原のタクシーは家路に向かい、国道を走っていた。




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