また、部屋に誰かがいた
そんな不思議な事件から10年が経った。

「おばあちゃん、このひとが健史さんよ」

仏壇の前で、25歳になった沙也加は婚約者と並んで手を合わせていた。
3日後に挙式を控え、明日は二人の新居に引っ越しをする。彼はその荷造りの手伝いをするため、沙也加の実家を訪れていたのだった。
沙也加の両親と4人で食事をし、夜になって健史は
「じゃあ、明日また来るね」
と言って帰っていった。

引っ越し準備がされたダンボール箱の積まれた沙也加の部屋。
ここで眠るのは今夜が最後かと思うと彼女は複雑な思いで、そこに敷いた布団で眠った。

眠りにつく沙也加に、長い間ここで彼女を見守っていた白い影が語りかける

「今日、ここに来た者は優しい男だ。そして、お前を心から大事に思っている。
 きっと、これからは、あの男がお前を守ってくれるだろう…

 だから、明日、わたしも行くことにする。

 わたしは…、あまりに長くここに留まりすぎたようだ…

 あの日…、あの川沿いの道にいたわたしに美味しいパンをありがとう。優しい人間の子…」








「部屋に誰かがいた」







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