また、部屋に誰かがいた
それから、数日後

「た~まきさん!」

あかねが玉木を訪ねてきた。

「もう安心していいよ。玉木さんのお母さんは今までどおり、あの家で暮らせるようになったよ!ローンはなくなったし、年金で十分に生活していけるって!」

「そうかぁ~!あかねちゃん!本当にありがとう!ありがとう!」

「それと…玉木さん、ひとつだけアタシに嘘ついてたでしょ?」

「え?」

「玉木さん、お母さんのことを『おかん』じゃなくて『おかぁちゃん』って呼んでたんでしょ」

「………」

「男のひとって、そういう人多いよねぇ…大人になってから呼び方変えちゃうひと。なんで?」

「別に…ええやん!そんなこと…」

「お母さんから聞いちゃったんだ。それとね…」

あかねはそう言うと、彼女の背後に声をかけた。そこには玉木の母親がいた。

「………!」

驚いて絶句した玉木にあかねが説明した。

「お母さん、なかなかお金を受け取ってくれなくて…それでね、信じてくれないかもって思ったけど、全て話したの。そしたら、玉木さんにお礼を言いたいって…」

「おかん…」

玉木の姿が見えていない母親はあかねに促され、玉木の前に立った。

「わかっていたよ…。お墓にも、仏壇にもお前はいなくて…まだ、ここにいるような気がしてたんや…」

「………」

「ありがとね…お前のおかげで、あの家で暮らせるよ。お父さんやお前との思い出が詰まった家で。本当にお前はええ子やった…小さい時から親思いで、優しくて…」

「………」

「春夫…春夫…」
泣きながら座り込む玉木の母を、あかねはただ黙って見つめていた。

「今日はお前の好きな「おこわのおむすび」作ってきたよ」

それはアルミホイルに包まれていて、大きさもバラバラで…
相変わらず不細工な見た目だった。

でも…見た目は悪いけど、美味いんだ。玉木はそれが大好きだった。

いつしか、玉木の目からは涙が溢れていた。思わず膝をついた彼は母に向かって泣き叫ぶように

「おかぁちゃん…おかぁちゃん…おかぁちゃん…」

そのときだった。

突然、玉木の体が白い光に包まれた。そして彼はそのまま天へと上って行った。

あかねは見上げながら涙声で呟いた。

「玉木さん…よかったね…」

彼を地縛霊としていた理由は、決して不慮の事故による「無念」なんかじゃなかった。
暗い廃ホテルに地縛霊として現世に繋ぎ止めていたものは、年老いた母親を案じる息子の「愛」だったのだ。


玉木の母親と建物の外に出たあかねは空を見上げて、こっそりと囁いた。

「玉木さん安心してね。その変な姿はお母さんには言ってないからね」













< 18 / 147 >

この作品をシェア

pagetop