また、部屋に誰かがいた

玲奈

中山玲奈は一人暮らしをしているアパートに帰ってきて、その日、カフェで出会った男のことをぼんやりと考えていた。

大学への進学で関西を離れて上京し、1年が過ぎた。
圭太が事故で亡くなってから、特に恋人を作ることもなく、異性を好きになることもなかったが、その日、彼女が出会った男は何か違っていた。

その瞬間、玲奈は思わず、その男に見惚れてしまっていた。

その横顔の美しさに。

顎から耳にかけての線が綺麗だった。
高く形のよい鼻も。
切れ長な目は長い睫毛越しに右手に持った文庫本の文字をなぞっている。
その右手も、「持ち方」というか手の形が美しかった。
玲奈にとって、これほどまでに「美しい」と感じた男性は初めてだった。

黒のダークスーツに身を包み、一見、線が細く感じる印象も、むしろ知的に感じる。

彼女は、ずっと見惚れていた。そして、その男の空気感に心を奪われてしまった。

いまでも思い出すと胸がドキドキする。

「どうしちゃったんだろ…」彼女は不思議な感情に戸惑っていた。

そう言えば、昨夜も不思議なことがあった。
深夜に目が覚めて時計を見ると、ちょうど2時だった。

あまり夜中に目を覚ますことのなかった玲奈はそれだけでも違和感を感じたのが、
そのとき「部屋に誰かがいた」ような、気味の悪い印象を思い出しながら、そのとき感じた空気と同じものが、なんとなく今日昼間に出会った男にも、あったような気がしていた。
そして、懐かしいような奇妙な感覚も。
「いったい…何者なんだろ…?あのひと」




カケルのスマホには今回の対象者の残り時間が表示されている。
「5日14時間21分」
昨夜、玲奈の部屋で久しぶりに見た彼女は、少し大人っぽくなってはいたが、彼の知っていた玲奈だった。
これまで100人あまりの人生と最期を見て、一人前の死神となっていた彼が今回、担当となった対象者は玲奈だった。
彼女は5日と14時間後に彼女が買い物のため立ち寄る店舗に運転を誤った自動車が飛び込んで事故死することになっていた。
「玲奈…」
カケルは久しぶりに玲奈に会えた嬉しさと、この残酷すぎる運命に心が騒いでいた。



翌日、大学の講義が終わった玲奈は前日、不思議な男がいたカフェを覗いてみたが、彼はいなかった。

そのまま彼女はテーブルにつき、スマホを取り出して何気なく画面を眺めていると、



< 40 / 147 >

この作品をシェア

pagetop