また、部屋に誰かがいた
「こんにちは」

ふいに声をかけられ驚いた玲奈が顔をあげると、昨日の男が立っていた。

「君、昨日もここにいたよね」
「あ…はい…」
「黒崎カケルです。東南大学の2年」
「え!そうなんですか?私も東南大の2年で中山玲那です。」
「うん。知ってるよ。君に会えるかなと思って今日も来てみたんだ。」
「え!」
「ここ、いい?」
玲奈の向かいの席を指さしながらカケルが尋ねた。
「はい…どうぞ…」

戸惑いながらも、そう答えるのが精いっぱいだった玲奈にカケルは続けて

「今日、これから予定ある?」
「いえ…特に何も…」
「そっか!よし一緒に遊びに行こう」
「え!」
なんて強引なナンパ?普段ならそんな誘いに付いていくことは絶対にない玲奈だったが、カケルの不思議な雰囲気が気になっていたこともあり、断ることができないまま、2人は出会ったカフェを出た。

カフェを出た2人は雑貨屋を少し巡り、アミューズメントタイプのゲームセンターで遊んだあと、最後は玲那の好きなパスタの美味しい店で食事をした。
それは玲那にとって初めての経験となる楽しい1日だった。
イケメンのカケルに時折周囲が羨望の目で振り返るのを感じながら、彼女がこんなデートをしたいと妄想していたことを全て知っているかのようにカケルは彼女をエスコートしてくれた。

近くまでカケルに送ってもらい、自分の部屋に帰って来た玲奈はベッドに腰掛けて思わず
「ふふふ…」

楽しかった。こんなに楽しかったことは初めてだった。
夢のようだった1日を振り返りながら、玲奈はまた

「ふふふ…」と笑った。



翌日、講義終わりに数人の友人たちと一緒に大学を出ようとしていた玲奈に
彼女の友人の一人が

「きゃ!あのひとカッコいい!」
「え!どこ?どこ?」

騒ぐ友人たちが見る先にカケルが立っていた。

「カケルさん!」

「玲奈!今日もう講義終わりだろ!待ってたんだ」
カケルは笑顔で答えた。

「玲奈、誰、あのひと?知り合い?
……っていうか、もしかして彼氏とか?」

嬉しいような、恥ずかしいような気持ちで玲奈はカケルの前に進んで、

「昨日は有難う。本当に楽しかった。」

「それは良かった。今日はここに行こう」
そう言ってカケルが差し出したパンフレットは玲奈が大好きなイラストレータの個展の案内だった。


< 41 / 147 >

この作品をシェア

pagetop