また、部屋に誰かがいた
部屋に誰かがいた【殺人者の資質】

2001

西の空にぼんやりとかかる雲の向こうに太陽が沈む。
日が落ちて、少しでも涼しくなった時間帯に外出をしようと考えていたのに、まだ蝉は騒がしく、地面からもムッとする熱気を感じる。
そんな9月初旬の夕方に吉本真奈美は二人の子供を連れて近所の公園に来ていた。
先月9歳になったばかりの長男の健人は同じく先月6歳になった妹の彩奈をブランコに乗せ、それを後ろから押してあげている。
「それっ!」という健人の元気な声と甲高い笑い声をあげる彩奈の声を聞きながら、彼女はふと、携帯電話が鳴ったような気がして、それを開いて着信を確認した。
しかし、それは電話帳に登録もなく、全く覚えのない番号からだったので、そのまま無視することにした。
ここ数日の間、彼女の身の回りで起こっている奇妙な状況が彼女を臆病にさせ、警戒心を強くさせていた。

「あの子たちは何があっても私が守らなくては…」

12年前、真奈美が短大を卒業して、すぐに就職した先で知り合った川口雅之は彼女より10歳も年上で、しかも既にバツイチであった。
実年齢よりも若く見える容姿と、女性慣れしたスマートなエスコートに当時の彼女は心惹かれ、健人をお腹に宿したことをきっかけに結婚した。
しかし、この男は異常なまでの女好きで、度重なる浮気の発覚に夫婦は喧嘩が絶えなかった。
それは二人目の彩奈が生まれてからも収まることはなく、2年前には、その浮気相手を妊娠させてしまったことから二人は離婚した。
真奈美には当時4人で暮らす予定で購入した家と、いくらかの預貯金が残されたが、二度の離婚後に現在も扶養家族をかかえる雅之からは養育費も滞っている。
真奈美は一人で働きながら、二人の子供を育てる決意をしていた。


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