一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 彼の言った言葉がチクリと胸に痛みを運ぶ。

 当然だろうけれど、彼にも「妙な噂を立てられている」状況を知られている。

 つまり、総務課……だけでなく社内のあちらこちらに噂は飛び火しているのだろう。


 どうでもいい。つまらないことをする。


 割り切っているつもりでも、わずかな隙間がジワリと痛みを生み出す。

 その痛みを紛らわせるために仕事をこなし、一段落してから飲み物でも買いに行こうと部屋を出た。

 けれどその考えをすぐに後悔することになる。

 なぜならば、自販機の並ぶ休憩コーナーの辺りで、成瀬が数人の女子社員に囲まれて楽しそうに談笑しているのを目撃してしまったからだ。

 無意識にサッと隠れ、それからすぐになぜ自分が隠れなければならないのかと不愉快になる。

「本当に彼女いないの? ウソでしょ?」

「ね~、こんなに成瀬さん、カッコイイのに、信じられな~い」

 彼女たちの笑い声が起きる。

 成瀬はいつも以上に爽やかな極上笑顔で答える。

「本当ですよ。というより、みなさんのような美人に囲まれていたら、他の女性なんてかすんじゃうでしょ? 彼女いないのはみなさんのせいですよ」

「いやだぁ、成瀬さんって本当にお世辞が上手だよね!」

「ねえねえ、今度は一緒にご飯食べに行きましょうよ~」

 甘いお菓子を食べたような、可愛く甘い声がやけに耳に響く。
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