一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「いいですね、こんな可愛い人たちと一緒にご飯を食べたら何でも美味しく感じると思います」

　成瀬のトークもバカみたいに甘い。

　しかも成瀬の言葉に反応して「きゃ～！」と騒ぐ女子社員の声はもっとバカみたいだ。

（本当にバッカじゃないの？　会社できゃっきゃうふふって、ここはカフェじゃねえっての。わきまえろ）

　心で悪態を吐き、グッとお腹の底に力を込めてから、私はツカツカと歩み寄り、自動販売機の前に立つ。


　途端にシンと静まる彼女たち。

　どうやら私を見ているようだ。

　そんな視線を気にすることなく、私はブラックのコーヒーのボタンを押し、すぐにその場を立ち去ろうとした。

　が、背中にこんな言葉が聞こえてきて、一瞬で心が凍り付いた。

「成瀬さん、あの人に関わらない方がいいですよ～。相当酷い私生活の人らしいですから、関わっちゃダメですよ～」

　甘いくせに棘を持つ彼女の声。胸に長くて太い釘を打ち込まれた気分だ。

　ガラス細工の心臓ならば、今の一撃で粉々に割れて飛び散っていることだろう。

　女子トークとして勝手に噂していることなど、どうぞご勝手にと思っていたのに、こうして成瀬に直接悪評を吹き込まれる場面に遭遇した途端、なんだかいたたまれないほど恥ずかしく、情けない気持ちになってしまった。
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