一寸の喪女にも五分の愛嬌を
メニューを開きながら稲田さんは「結構ワインが好きなんです。一緒に飲みませんか?」と少し照れ笑いをしながら誘ってくれる。

 彼女が会社でまとっている雰囲気からは、お酒を飲むイメージがなかっただけに、意外な一面を見ることができてなぜか嬉しくなり、私は「もちろんです」と喜んで返事をする。

 ここ最近、人と接することの煩わしさばかりに捕らわれていた。

(でも、誰かのことを知るって、悪くないことだったのかもね)

 人と一緒にいる楽しさをちょっとだけ思い出す。

 その時、ふと成瀬のことが頭の中に浮かぶ。

 こうして人と食事をしてもいいと思えるようになったのは成瀬のおかげかもしれない。

 どうして成瀬が営業から人事に異動してきたのか、調べようと思えば調べられる位置にいるけれど、私は一切知ろうとしなかった。

 彼の容姿から勝手に女性がらみのトラブルだろうな、なんて考えていたから、本人に聞くことも調べることもしていない。

(でも……少しなら、知りたいかも……)

 成瀬は誠実な男なのか、それとも軽薄な遊び人なのか。


 知りたい。


(ああ、でもやっぱり知りたくない……)

 今日、見た成瀬は女子社員と楽しげに話していたじゃないか。

 私に言い寄るくせに、若い女子たちを軽く誘うような男。

(そう……軽い男。早川さんだって、あんな軽々しくキスなんかしてきて)
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