一寸の喪女にも五分の愛嬌を
(本当に稲田さんだったんだ……)

 まだどこかで彼女を信じたい思いが勝る。

 ずっと一緒に仕事をしてきたけれど、あの穏やかで人の後ろでそっと笑っているような彼女が、そんな恐ろしい計画を実行できるとは到底思えなかった。

 ただ、一度だけ彼女が言った言葉で不思議に思ったことがあった。

 私と似ている、外面がいいタイプだと、自分でそう言っていたけれど、彼女のこの二面性のことを言っていたのだろうか。

 考えれば頭が痛くなり、左手で額を押さえると、すかさず成瀬がその手をつかんだ。

「先輩、疲れてる?」

「ううん、考えたら頭が痛くなっただけ」

「横になりなよ。まだ風邪が抜けないんじゃないかな」

 心配そうに覗き込んでくる成瀬に、少しだけ意地悪を言いたくなり、私は上目遣いでこう言った。

「一人は寂しいわ。成瀬、一緒に寝てくれる? 一緒なら寝る」

 言った途端、成瀬は喉の奥で「うっ」と呻き、すぐに大きな息を吐き出した。

「先輩さあ、そんなことを言われた男がどうするかって考えてる? 考えていないわけないよね?」

「あんまり考えていない。とにかく……今は成瀬が一緒にいてくれたらそれでいいの」

 意地悪じゃなくてこれは本心。

 だから言った後、頬が熱くなったのを感じて私は横を向く。
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