一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 絡みつく腕と足と体と、その全てが一つになり心まで溶け合わせた。


 夜が更けていく。 


 一人で越えてきた二年の月日が、さらさらと砂時計が落ちるように流れていく。

 私の心は、もう動き出した。息を吹き返したのだ。


(好き……成瀬が好きなの)


 固く閉じた心の鍵は壊れ、蓋は開かれてしまったのに、後悔などひとつもない。

 甘く苦く、成瀬に翻弄されていく。

 静かに降り出した雨さえ気がつかないで、私たちは夜の中で求め合っていた。


 逃げ回って、そうしてたどり着いた先に成瀬がいた。

 私を捕まえてくれた人が、成瀬だったこと。そのことを神に感謝したくなる。


(好きよ、成瀬……)

 これが二人の関係の、始まりの衝動なのか終わりの始まりなのか、まるで先の読めない混沌の中で、私は成瀬に慈しむように抱かれて、そして意識を手放した。
< 229 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop