一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「大丈夫なはずないですよね! 私、本当に悔しい! 柴崎さん、全然そんな人じゃないのに、男にだらしなくて不倫しているとか、独身社員を食い尽くしているとか、女子社員には裏でひどい暴言を吐くとか、もうあることないこと……。私、悔しいです!」

 びっくりした。

 ひどい言われようよりも、あまり話したことのない地味でおとなしい稲田さんが、ここまで大きな声で私のために憤慨してくれていることに、とても驚いてしまった。

 しばし私は言葉を失って目をぱちくりしていたから、お局様の菅井さんは誤解したようだ。

「本当に驚くほどひどい中傷で驚くわよね。事実無根だってこと、私たち人事課は全員わかっているけれど、他の部署では男性社員にもその中傷を信じる人も出てきてるそうで、腹が立つわ。誰がこんなことを言い出したのかしら」

「私、女子社員の人に柴崎さんはそんな人じゃないって言ったんですよ。でも「ババアは黙っててよ」って受付の人に言われて……受付の人たちって、なんだか怖くて、それ以上言えなかったんです」

 今にも泣き出しそうに稲田さんがうつむく。


 この時、私は実は、心の中で感動していた。


 事実無根の噂や嫌がらせは正直不愉快だけれど、それよりも菅井さんも稲田さんも私のために憤ってくれていることに驚きとともに感動していた。

 今までそこまで親しくしてきた覚えはないし、それなりのお付き合いしかしていないのに、同じ部署だからとここまで言ってくれるなんて、想像もしていなかった。
< 58 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop