一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「稲田さん、ありがとうございます。でもこれで稲田さんまでイヤなことをされたら申し訳ないです。変な噂も事実無根だとわかればそのうちに消えていくと思いますから、どうか気にしないでください」

「でも! 柴崎さんがこんな風に言われるなんて!」

「私はお二人にこんなに心配して下さってもらえたことが嬉しいです。ありがとうございます」

 二人へ頭を下げた私に、菅井さんは苦笑した。

「私たちはね、柴崎さんがいつも笑顔で仕事のことを一番に考えてテキパキと仕事をしていることをよく知っているの。貴重で優秀な人材だってこと、人事にいると本当に実感しているわ。こんな嫌がらせに負けてやめたいなんて言わないでね」

「そう! 私たちはもちろん、人事課全員が柴崎さんの味方ですから!」

 拳を握りしめ、力説してくれる稲田さんが鼻息を荒げている。


 不覚にも、涙が出そうになった。


 社会人としては仕事の評価が全てで、相手を不快にさせない程度に上辺で付き合えばいいと、そう過ごしてきた私は、今、二人に味方をしてもらって泣きたい気持ちになっていた。


 ――人って……本当は一人で生きるのって、難しい生き物なのかな……。


 支えてくれる人、理解してくれる人、そして愛し愛されて生きること。

 そんなことを本能が求めてしまうのだろうか。

(関わる人なんて、スマホの中の恋人たちだけで充分なのに……どうしてこんなこと考えてしまうんだろう)

 私は潤みそうになる瞳を隠すように、そっと瞼を閉じ二人に深々と頭を下げた。
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