一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 どれくらいの時間が過ぎたのかわからない。

 私はむりやり成瀬の腕の中から抜け出そうと身じろぎをする。

 すぐに成瀬は離さないとばかりに力を込めたから、私はまた成瀬に強く抱きしめられた。

「先輩……今日も泊まってもいい?」

 いきなりこんな体勢のまま甘えた声を出すなんてずるい。

(この男は……)

 呆れた溜息が出てしまう。

 どれほど自分の価値、女の扱い方、タイミングを熟知しているのだろうか。


 憎らしいことだ。


 絶対にこいつにほだされたりしない。
 意識してしまったりなんかしない。

 私には王子様だって武将だって、どんな人とだって恋ができるのだ。

 こんな女の扱いに慣れたリアルの男になど心揺らしたりしない。


 それなのに……


「ま……どうしてもって言うなら……いいけど。ただし変なことしないでよ」

 そんな返事をしてしまった。

 私の返事に一瞬だけ息を止めた後、すぐにぎゅうっと腕に力を込める。

「わあ、マジで嬉しい。言ってよかった」

「喜ぶな。絶対に変なことを――」

「しないしない。だって先輩に嫌われたくないし、軽率なことして先輩を傷つけたくない」

 チリリと感情の底が燃やされるような痛みを感じた。
< 70 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop