一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「危ないじゃない!」

 抗議する私を無視して、成瀬はギュッと抱きしめる。

(強い腕……)

 男らしい力強さと固い腕の感触を意識してしまい、わずかに呼吸を止める。

(こんなこと……望んでいないのに)

 三次元のリアルな男など、二度と寄せ付けないと固く誓っていたのに、こんな風に心が弱っている時に、強く抱きしめられて私は次に取るべき行動を思いつくことができずにいた。

「な……成瀬……?」

 遠慮がちに呼びかけると、成瀬の鼓動が少しだけ速くなったのが、直接耳に届く。

(まさか……だよね?)

 成瀬はとても男前だ。
 しかも人当たりは良くて仕事も充分にできる。

 きっと今まで可愛い彼女は選び放題で、女に苦労したことないと思われる。

 だからこんな年上の、しかも二次元の恋愛ゲームに興じる猫かぶりの女を本気で好きになるわけはない。

 付き合いたいとか言っていたのは社交辞令か興味本位のからかいか。

(だよね? 成瀬……)

 成瀬の鼓動につられて自分の胸も早鐘を打ってしまう。

 それほどに成瀬の鼓動はドキドキとこちらが照れてしまうほど響いてくる。

 私は言葉を失い、成瀬の腕の中で戸惑っていた。
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