一寸の喪女にも五分の愛嬌を
(最後のピースは……)

 成瀬と夜、一緒に食事に行く約束をしていることだと、わかっているのに、それでも喪女の私は、その現実を直視しようとしていない。

 だからまだ朝、スマホの中に取り込んだ写真を成瀬に送信することもできていない。

(どうしよう……成瀬の社交辞令かもしてないのに、真に受けてバカにされてしまうんじゃないかな……)

 私らしくもなくウダウダと考え込むばかりだ。

 いつもなら、一言、「これはどういう意味? 私は誰かと一緒にご飯なんて食べたくないから」なんて可愛げなくピシャリと言うか、会社仕様の外面で、「お誘いはありがたいですが、都合が悪くて申し訳ありません」と丁寧にお断りすればすむことなのに、何を迷っているんだろう。


(――上手くいかない……)


 重たい溜息をこぼす。


 成瀬相手になると、なぜか自分のペースがつかめない。

 こんなに心が揺れているなんて認めてしまいたくないのに、ふと気づけばあいつのことを考え、あいつの横顔なんかをチラ見している。

 熱心に何かを打ち込んでいる成瀬の、今の仕事はセミナーの下準備の諸々。

 本来なら私の仕事だったのだが、総務ともめてしまったので、成瀬がメインとなり私はサポートに回ることになった案件だ。
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