一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「違うんです、あんまりにも先輩が可愛いから、笑ってしまったんですよ」

「はああ!? 私が可愛い? あんたの脳内って、前から思っていたけど相当腐っていると思うわ。本気で一度調べてもらったら?」

「ほら、そういう言い方をするところも可愛いんですよ」

 成瀬は私へと手を伸ばすと、そっと頬に触れた。

 ぴくりと小さく肩が震えたことを隠して、わざと彼を睨み付ける。


「先輩……顔、真っ赤。可愛い」


 ささやくような成瀬の声。

 甘くて柔らかくて、私の心の奥を揺らす。


 冗談じゃない。

 こんな女をたらし込むような言葉をさらりと言える男になんて、一ミリだって心を許したくない。

 ドキドキと高鳴っている胸なんて、私の意志じゃない。

 思い上がりの喪女になってしまいたくない。


 パン、と私は成瀬の手を弾き、ツンと視線を逸らす。

「気安く触るな、三次元が。顔が赤いのはお酒入ったからなの」

 ふん、と鼻息荒く言い放った時、私の横を通り過ぎようとしていたカップルが、ケンカでもしていると誤解したのか、チラリとこちらに視線を向け、そして彼らは立ち止まった。

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