一寸の喪女にも五分の愛嬌を
(何見てんのよ。痴話げんかじゃないわよ)

 不快に思いながら顔を上げた私は、息を止めた。

 腕を組んでいるカップルの女性が、おずおずと口を開いた。


「……薫?」


 泣き笑いの表情をしている彼女は、私を見てから、次に成瀬を見遣った。

「もしかして……彼氏?」

 彼女の問いかけの声の中に、少し明るさがこもった。


 今、頭が割れそうに痛い。

 鈍器で後頭部を叩かれると、きっとこんな衝撃を受けるのだろう。

 声も出ない。周囲の音も消え去っている。

 立っているのかどうかさえ自分の感覚がつかめない。

(こんなに……衝撃を受けるなんて……)

 目の前に立っている彼女は、橘綾乃(たちばなあやの)、高校の同級生。

 そして彼女の隣に立っているのは、北原宗一郎(きたはらそういちろう)。


 私の元彼氏だ。


 彼は一言も発せずに、ただ冷えた瞳で私を見ている。

 いや、多分見ている、が正しい。

 私は二人を直視できずにいた。


< 100 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop