ノラネコだって、夢くらいみる
 当たり前でしょ。ここで『今日からよろしくお願いします、ご主人様!』なんて答える人がいるわけない。いたとしたら、ドMだ。


「気が向いたら、連絡して」


 そう言って、男から名刺を渡されそうになる。が、それをすかさず躱(かわ)す私。

 なによ。やっぱ、こいつも偽スカウトマン?

 だとしたら、とびきりヤバい仕事を紹介されそうな気さえしてきた。


「__受け取れ」


 男が私の胸元に名刺を入れてきた。

「…………!?」

 驚いた。ついさっきまで一定の距離を保っていたのに急に近づかれ、不意をつかれてしまった。

 慌ててそれを取り出す。そして顔をあげるともう、その男の姿はなかった。

 強引なんだか……潔(いさぎよ)いのか………。

 取り出した名刺を渋々と眺める。


 逢阪プロダクション
 代表取締役
 逢阪 竜也 Tatsuya Osaka


 ウソでしょ……あの変態、社長なの?

 驚きのあまり、その場に立ち尽くしてしまう。
 
 ………まさかね。名刺くらい、いくらでも捏造(ねつぞう)できるだろうし。それっぽいことが書いてあるだけだろう。

 ちょうどコンビニの前を通り掛かり、名刺をそのままゴミ箱に投げ入れてしまおうかとも思ったのだけれど。


「……」


 ポケットに、しまい込む。

 今日もまた、私は、ここ原宿を彷徨う。
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