二回目の恋の始め方
奏には好きな人は居ないと言ったけど、実は気になる人は居た
かと言って特に何かをする事もない
今の気持ちはあくまで気になる人なのだ
好きな訳ではないし、自分の容姿に自信が持てない私は声を掛ける事もない
相手は同じ中学の同級生の男の子だった
真面目で大人しくて男版の私みたいな人だ
少し長めの黒髪が柔らかそうだ
眼鏡はだて眼鏡で視力はそんなに悪くない事や一見冷たそうに見える容姿なのに意外と優しい所や眼鏡の奥の睫毛が長い事や形の良い唇から吐き出される少し低めの声だったり仕草だったりが何と無く気になる人なのだ
クラスメイトなのに数える程度しか話した事は無いし接点も無い彼が気になりだしたのは三年に上がって直ぐの事だった
人見知りが激しい私は周りの環境に慣れずに友達も出来ないし寂しい思いをしていた
もう一月が過ぎたのに中々話し掛けれない私はクラスの中で少し浮いた存在になりつつあった
二年生まで仲が良かった友人等とは運悪くクラスが離れてしまい、ボッチな私は昼御飯を何時も一人で食べていた
教室に居ずらくて、抜け出した先に居たのが彼だった。中庭はその時の私が居れる唯一の場所だった
円を描きベンチが等間隔に並ぶ。彼が居た事に一瞬思い悩み、他の場所に行こうか考える
友人等は新しい友人と実に楽しそうだったなって考える
彼にジッと見られたかと思えば「座れば」と言われた
たったそれだけ
たったそれだけで此処に居ても良いんだって思えた
その日から昼御飯はソコに言って食べる様になった
特に何かを喋る訳でもなく、等間隔に空いたベンチに腰を卸してお弁当を食べる私達
彼も黙々と食べ、食べ終わると数分空を見上げる彼
何も言わないし、私も言わない
そしてそのまま昼間は過ごす
しかし、学校生活に徐々に慣れて行き友人が出来てくると足も遠退き、中庭に行かなくなる
しかし、ふとした時に思い出すのだ
彼は今日も彼処で空を見上げて居るのだろうか?と
最後の日に会った彼は何かを言いたそうにしてたけれど私は気付かない降りをした
そしてポツリ「ありがとう」一言呟いた私
何に対してのありがとうだったのか自分でも分からない
彼は特に友達が居ないと言う訳では無かった
友人等と仲良さ気に喋ってるのを見たし、ふざけあってるのも見た
本当に何と無く気になったって感じだったのだ
しかし物凄く気になるって程では無かった
多分だけど、それは切っ掛けに過ぎないと思う
異性を意識する切っ掛け。男と女の違いに気付く切っ掛け。恋の始まる切っ掛けだったのかも知れない
でも、切っ掛けは切っ掛けに過ぎず、行動しないと発展は無く、私はただ彼を見てるだけに終わってたのだ
彼が何時も食べてるのはコンビニのパンやおにぎりやらが多かった事に気付き、栄養は大丈夫なのか少し心配になったが、何て言う訳でもなく終わる
読んでる本は難しそうな本ばかりだった
そんな彼が行く高校は私が志望する高校だった
直美に彼の事を話したら凄く興奮してた
「告らないの?」何て聞いてくるから「絶対あり得ない!」と言っておいた
私も年頃の女だ、恋愛事もその先の事も興味津々なのだ
女同士だと言うのは結構明け透けなくバッサリしてると思う
あ、それは私と直美との間と言うことで一般的な事は分からない
キャァキャァ言いながら話す会話は奏と太陽には聞かせられない事なんかも多かった
下ネタも言われ、顔を真っ赤にする私を笑う直美
「ねぇどっちから告白した?」
二人の馴れ初めが気になった私はそんな事を聞く
恥ずかしそうに「太陽から」何て言って笑う直美は可愛らしかった
「もう、ずっと片思いしてたから夢かと思った」と幸せそうに笑う直美
「ねぇねぇ、キスって舌入れるって本当に?」
ニヤリ笑い「うん、こういう風に」何て言って舌を出してくる
キャーと叫ぶ私は酷く子供っぽい
直美との話しは楽しくて楽しくて、自分の事の様にドキドキした
キスもその先も経験してる直美は凄く大人に見えた
キラキラと輝いて見えた直美が綺麗で、ああ私も直美の様な素敵な恋愛がしたいって思った
直美は何と無く私と奏がカップルになって欲しいと思ってる様だった
それとなく二人っきりにしたり、奏のモテ自慢をしたり、お得な物件だと仄めかしたりするが、無理矢理くっ付け様とはしなかった
良く周りの男女をくっ付けるお節介な友人が居たりするけど、私もくっ付けられそうになった一人だった
「付き合ってみれば」と言いながら勝手に私のメアドを教えたり、まだ知り合って日も浅い内に二人っきりにされたり、本人の目の前で「ユイと付き合ってやって」と言ってみたり...
遊びに呼び出されたと思えば男の子の紹介だったり...
奏と二人っきりは別に嫌じゃない
寧ろ心地良い
昔から知ってるせいか安らげると言うか、気が抜けるのだ
奏は嫌いでも無いし好きでも無い
今の私達の関係は、恋人未満友人以上だ