Another moonlight
「昔の話もいいけどさ。アキラ、最近あの子とはどうよ?」

「どうって?」

「うまくいってんのか?」

「別に…普通だと思うぞ。」


アキラの彼女の広瀬 栞奈(ヒロセ カンナ)は29歳で、損害保険会社の小さな事務所で事務員をしている。

「付き合ってもうどれくらいになる?」

マナブに尋ねられ、アキラはカンナと出会ったのはいつだっけと思いながらビールを飲んだ。

「えーっと…確か1年…くらいか。」

「もうそんなになるのか、早いな。今回はずいぶん長続きしてるじゃん。」

「あー…そうかもな。」

カンナとは1年ほど前、仕事帰りにこの店に寄った時に出会った。

この店で顔見知りになった客とカンナが友人で、カンナはその時初めてこの店に来たと言っていた。

少し話をしたからと言ってアキラはカンナのことが特別気に入ったわけでもなかったけれど、何度か顔を合わせるうちに次第によく話すようになり、この店以外でも会うようになって、気が付けば付き合っていたと言う感じだ。

好きだとか付き合おうと言う言葉があったかどうかもよく覚えていない。

どちらから誘ったのかもさだかではないが、何度かデートをして、その流れで自然と男女の仲になっていた。

おそらくカンナのことは好きだとは思うし、カンナも同じように自分を好きなのだと思う。

だから1年近くもこの関係が続いているのだろう。

カンナはこれまでアキラが付き合ってきたタイプとはまったく違う。

派手でもないし、特別美人と言うわけでもない。

どちらかと言うと家庭的で物静かで、それこそ気が付けば隣にいると言う感じ。

アキラは改めてカンナとのなれそめを思い出して首をかしげた。

(好きとか付き合おうとか…おそらく一言も言ってねぇ…。なのになんで一緒にいるんだ?)

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