Another moonlight
アキラは電話を切って、久しぶりのタバコに火をつけた。

入院中は傷に障ると言う理由で医師から禁煙を言い渡されていた。

傷が痛むうちはタバコを吸いたいと思う余裕もなかったが、だんだん傷が癒えて痛みがおさまって来ると、無性にタバコが吸いたくなった。

しかし担当の看護師長の厳しい監視の元では、ナースステーションのすぐ先にある喫煙室に行くこともできなかった。

(やっと自由にタバコが吸える…。)

アキラは煙を深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。

立ち上がって換気のために窓を開ける。

窓の外の見慣れたはずの風景も、久しぶりに見たせいか、やけに新鮮に見えた。

(ユキ…どうしてんだろ…。)

入院中、ユキは一度も見舞いに来なかった。

マナブに何かおかしなことでも吹き込まれたのか、それともユキ自身が自分には会いたくなかったのかもと、アキラはため息混じりに煙を吐き出した。

(心配のひとつもしてくんねぇのかよ…。薄情なやつ…。)

以前なら、“帰ってきたぞ”とユキの元をふらりと訪れることもできただろう。

けれど今は、顔を見に行くどころかメールをすることさえためらわれる。

ユキはきっと自分のことなんてなんとも思っていないのだろうと思うと、胸が痛くてため息しか出てこない。

それでもやっぱり、ユキに会いたい。

もう忘れようとどんなに無理をしても、結局はユキのことしか考えられなかった。

ユキを想うと切なくて、胸が苦しい。

それは昔から変わらない。

アキラはまたため息をついて、タバコの火を灰皿の上でもみ消し、天井を仰いだ。

(ああもう…。ユキはオレのことなんてなんとも思ってないのに…なんでオレばっかりがこんなに好きなんだ…。)



< 193 / 220 >

この作品をシェア

pagetop