トゲトゲの君と、グダグダの俺。
トゲトゲの君と、グダグダの俺。
 
鍵を開け、暗い玄関で手探りで電気を点ける。
パチパチと数回瞬いた後にやっと灯った照明を見上げ、そろそろ交換時かなとひとりつぶやいた。
今のご時世LEDに交換するべきなんだろうけど、もうすぐ引っ越すつもりだから、とりあえず安物の蛍光灯で充分だろう。

靴を脱いで上り框に一歩踏み出す。
靴下越しに伝わる冷たさで、この部屋に君がいないという現実を今日もまた実感する。

無音の部屋に耐え切れず、帰宅するとまず一番にテレビのリモコンを探すことが習慣になったのは、君がこの部屋からいなくなってすぐのこと。

テレビから流れる陽気な笑い声を聞きながら、ストーブをつけネクタイを緩める。
そのままソファーに崩れ落ちたい気持ちをなんとかこらえ、今朝脱いだままの形で床に落ちていたスウェットに履き替えたのは、君の口癖を思い出したから。

スーツのままダラダラとソファーでくつろいでいると、シワになるでしょうとか、膝が出るでしょうと、いつもキツイ口調で叱られた。

営業マンなんだからスーツと靴はいつも綺麗にしているのが礼儀でしょうとガミガミ言われるたびに、口煩い女と結婚しちゃったなぁと心の中で舌を出していた自分が懐かしい。

文句を言いながらも、朝になればハンガーにかけられたスーツにはシワひとつなかったし、アイロンがかかったワイシャツには固いくらい糊がきいていたっけ。

今こうやって一人になって、そのありがたさが身に染みる。

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