あの日ぼくらが信じた物
「ああ、それが違うのよ。光代ちゃん、もう長くないらしいの」


「は?」


 ぼくは母が何を言っているのか解らない。長いの反対語は短いだ。みっちゃんの背は全然短くない。


「骨の病気でね。若いから進行が早くて……気付いた時にはもう、どうしようもなかったんですって」


 母は多分、ぼくに真正面から伝える勇気がなかったのだろう。今も背中を向けながら洗い物をしている。

まるで他人事、ドラマでの話をするようにサラッと言ったのは、ぼくへの最大の配慮だったんだ。


「いや、でも今日だって一緒だったんだよ? 明日も習い事の日じゃないから遊ぶしね」


「鈴木さんの奥さんからも言われたのよ。あきらにもちゃんと伝えるようにって」


 母はわざとらしく大きな音を立てて洗い物を続けている。肩がひくひく動いていたのは、多分泣いているからだろう。


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