あの日ぼくらが信じた物
 しかしマーガリンはその場を動こうとしない。


「どうしたの? 怖くないですよ?」


 マーガリンはくるりと踵キビスを返して身体の側面を見せるように回った。


「ああっ! 凄い傷」


 そこには大小様々な傷が有った。その部分は毛が生えていないので、傷が癒えているであろう今でも容易に確認出来る。



  ナァァァァオ



 そしてまた鳴いたマーガリンは、ぼくたちに永の別れを告げたようだった。


「みっちゃん……」


「あきらくん。今マーガリンが笑った」


「ぼくにもそう見えたよ。きっと『これからは人間の世話にはならずに生きていきますよ』って言ってるんだ」


「マーガリン!」


 数歩歩いてチラリとこちらを振り返ると、マーガリンは脱兎の如く走り去った。


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