あの日ぼくらが信じた物
「いい? 今度はちゃんと念じるのよ?」


「解ったよぉ、でもぼく、頑張ったんだけどなぁ」


 彼女が再びお婆ちゃんから貰った石を持って来たのは、高校受験を終え、ぼくも何とか滑り止めの高校に行ける事になった春休み前の事だった。


「楽園楽園楽園、南の島動物の楽園……」


「綺麗な鳥が見たい、美しい花が見たい……」


 ぼくたち2人は図鑑を広げながら、いつもの神社で行きたい場所を心に思い描いていた。


「やっぱりさ、これって夢物語だよ。小学生の時だって、あんなに暑い思いをしながら願ったのに、何も起こらなかったじゃないか!」


「そんな事無い。お婆ちゃんは私に嘘ついた事無いもの。あの頃はまだ2人とも子供だったから、気持ちをひとつに出来なかったのよ」


 でもその日は、やっぱり何度やっても何も起こらなかった。

 彼女のお婆ちゃんの話では、その石を意志の通じ合った2人が使うと、頭で思い描いた場所に連れて行ってくれるという。

それは透き通るように白く、すべすべと滑らかな表面の、しかし何のヘンテツも無いコブシ大の石ころだ。


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