SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


……なんだ、 まだそんなこと……


「いいよ別に。慣れてるから」


「……は?」


「殴られるの慣れてるんだ。それより……」


「……っ! 待てっ! それは一体どういう——」
「あ〜! 黒パーカーの事なんだけど!」


あたしは無理やり話を戻す。


「……っ⁉︎」


「昨日、キツネくんたちに初めて聞いたんだ。黒パーカーの男のこと……」


「……あ? ……ああ、」


「そんなの、全然知らなかったし。なんて言ったらいいのか……」


「…………」


「聞いたあと、あたしすごく落ち込んだんだ」


「……何故、おまえが落ち込む」


「だって黒パーカーは……」


——ハア〜。

大きなため息が出てしまう。

悲しみ、怒り、憎しみ……?

似てるようでなにか違う、よく分からない何かが心を責めたてた。


……ああ、苦しい……


いてもたってもいられない発作的なこの衝動——、


「あ——っ!」


おもわずあたしは叫んでしまう。


「……っ!」

——バッ!

奏太が慌てて口をふさいだ。


「おまえっ! 情緒不安定かよっ!」


「……っ、」


「店で大声出すんじゃねえ! いいか! ルールだ! 分かったか!」


——コクン。

あたしは静かに頷いた。


「……ったく……」


奏太の手がはずされる。

あたしは冷たい水を飲んだ……
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