SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

◇報復の代償

————————————————
——————————————————
————————————————


"ティン"


季節外れの音色が不規則に耳に届けられる。

夏からずっと吊られたままの風鈴。

閉じた窓のせいで音はこもり、それは小さく弱々しい。

広い縁側には冷たい秋風の侵入はなく、窓からはたっぷりの暖かな日差しが降り注いでいた。


——午後二時……


まだ二時なのか、もう二時なのか、いまいち感覚が分からない。

朝方、湧人とここに帰って来てから、あたしはただ流れに身を任せているしか出来なかった。

言われるがままお風呂に入って、寝て、

そしたら急に起こされて、何故か急いで駆けつけた、黒木とユリに対面して……


「…………」


窓の外を見つめる。

敷地の隅にある小さな野菜畑では、さっきからお婆ちゃんが何やら畑の手入れをしている。

昨日とは打って変わって晴れた空……



『……ゴメン……』
『……ごめんなさい……』



また、二人の声が蘇った。


さっき二人は見た事もないような落ち込んだ様子で、ごめんとあたしに謝った。

すすり泣くようにしながら何度も何度も……


あたしは、よく分からなくて……というより、何の話をしているのか、言葉がうまく入ってこなくて……

ただ、泣いてる二人を見つめてた。


何がそんなに悲しいのか、苦しいのか、それはあたしのせいなのか……


やっぱりあたしのせいなのか……


心にはどんどん重いものが被さって


結局、何も二人に言えないまま……


唯一、意志を示せたのは、


『『……帰ろう……?』』


そう、二人が言った時。


————帰らない。


あたしは首を横に振った。
< 662 / 795 >

この作品をシェア

pagetop