SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「みく?」


湧人が隣に腰を下ろす。

穏やかに微笑む湧人は、朝からずっとあたしのそばを離れない。

今日は学校があったはずなのに……


「大丈夫? 眠くない?」


「うん」


頷くと、またほんの少しだけあたしに微笑む。

そのいつもと変わらない態度があたしの気持ちを軽くした。

湧人とはちゃんと会話が出来ている。


「着替えとか、あとで黒木さんたち持ってくるって。 あと足りないものがあったら——」


いろいろ話をする割に、朝の話の内容についてはさっぱり何も触れてこない。


「これから長く住むなら仏間の隣はちょっと……二階も部屋が空いてるからそっちに——」


そこは気を遣っているのか……

でも、


「……透と薫は——、」


あたしは、その話がしたかった。

ピクッと湧人の頬が動いたのを確認する。


「透と薫は、今、どうしてるかな」


質問に、少し視線を泳がせて、湧人は「さあ」とあたしに答える。


「黒木さんの話だと、二人より先にこっちに向かったって言ってたけど……」


首を傾げる素振りを見せた。


「ふうん、そっか。じゃあ、」


「……ん?」


「帰って、泣いてるのかな。さっきの二人みたいに。あたしの、せいで……」


「……っ、それはっ……」


湧人はハッと息をのむ。

すぐに真面目な顔をした。
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