雪に塩
「そういうのは、見栄えより気持ちだろ?」


「……で、ですが…」



「せっかく選んだんだ。渡さない方が、選んだものに失礼だろ。ユーハちゃんまだいるし、今日は片付けいいから渡してこい、な!」



竺牽捏は強引な理由を捲し立て背を軽く叩き、渋る靱を送り出した。



「う――んっ……。」



客を全員見送って、キャバ嬢達も着替えに戻った後、杠は一人深呼吸をする。




‥‥杠は秋と冬が好きだった。


キャバ嬢達は春、竺牽捏は夏の方が温かく解放的だから好きらしいが。


四季があるのは素晴らしいとは思う。


されど、自分の誕生月が含まれているのを差し引いても、脱いでも涼しくはならない春夏より、着れば多少は温かくなる秋冬の方が、杠は好きだ。‥‥




肌を撫でる夜風と肺に取り込む空気は、少し冷たく気持ちいい。



実は鍼蔑からの薔薇の花束、嬉しかったのは嬉しかったのだが、杠には匂いが強すぎた。


密閉空間である店内に100本もあったのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。



ただ、林残の客であるし、悪気がない好意である為、鍼蔑に対して強く言えないのが、杠にとって悩みの種になりつつあった。
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