心外だな-だって世界はこんなにも-
「聡くん……やっと……やっと言ってくれたな……。」
顔を上げると、美紀は泣いていた。この涙は俺が流させた涙だ。
「信じて……いいんだよな? 聡くんのこと……信じて甘えて……いいんだよな? もう……ね……私……幸せにしてもらって……いいんだよな?」
俺は美紀を思いっきり抱きしめた。美紀は俺の頼りない胸の中で泣いた。Tシャツが涙で濡れて、暖かい。俺の心も、奥の方がどこか暖かくて、くすぐったくて、気持ちよかった。
「ねえ、聡くん。」
美紀が泣き腫らした顔を上げた。
「チューして? 私、まだ聡くんからチューしてもらってないもん……。」
これは美紀が言ったからじゃない。俺がただずっとしたかっただけなのだ。
目を閉じた美紀の顔にゆっくりと顔を近づけた。そして、目を閉じる……そのほんの0、5秒前、視界にふと見覚えのある顔が入ってきた。
俺は慌てて美紀を突き放し、そして、柱の陰にこそっと隠れたババアの首根っこを掴んだ。
「見た?」
「ごめんね、聡ちゃん。見ちゃった、てへっ!」
いいところには、必ずそこに母親がいる。これは全国共通らしい。