彼の瞳に独占されています
「当然。だから何もためらうことはないですよ。彼を逃したら寂しい三十路街道まっしぐらですって」

「何気に失礼だよ、弥生ちゃん」


口を引きつらせる私だけど、彼女が言うことはもっともだ。永瀬さんほどの人がこの先現れて、しかも好意を寄せてくれることがあるとは思えない。


「んー……よし。永瀬さんの本心もはっきり知りたいし、とりあえず一緒に食事してみる」


決心して気合いを入れる私に、弥生ちゃんも笑顔を広げて、「その意気です!」とガッツポーズしていた。



急いで売場へ戻ると、永瀬さんは会議に出ているようでいなかった。その後もタイミングが合わず、結局食事のことは切り出せないまま、私の休憩時間がやってきてしまった。

弥生ちゃんと社食へ向かおうと一階のフロアを横切るとき、子供が書いたらしい短冊が目に入る。

ふたりで足を止め、皆のクスッと笑える願い事を見ていると、見過ごせない文章が書いてある赤い短冊を見付けた。


“おバカさんのことを幸せにしてくれる男が現れますように”


「淳一め……」


少々雑な文字を書いた主はすぐにわかって、私は苦笑いする。あいつ……ふざけてるでしょ、絶対。

横からその短冊を覗き込んだ弥生ちゃんも、ぷっと吹き出した。

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